松山地方裁判所 昭和24年(行)54号 判決
原告 蜂谷時一郎
被告 今治市長
一、主 文
被告が昭和二十四年一月十九日原告に対し今治市大字今治村甲三百八十六番地の三(通称青木通りの中)宅地六百十五坪についてした換地予定地指定はこれを取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として次の通り陳述した。
主文掲記の宅地―本件宅地(別紙図面A部分(イ点ないしチ点を結ぶ線で区切られた部分))――は原告の所有するものであるが原告は、以前からこれが地上に建物を所有し、良能病院と称して内科医業を経営していたところ、昭和二十年八月六日戰災に因り右建物を失つたので、その後同地上に診療所兼住宅三十一坪および病室三十六坪各一棟を建て、臨時暫定の措置として旧來の医業に從事しているものである。しかるに、被告は、昭和二十四年一月十九日付をもつて、原告に対し今治市特別都市計画の土地区画整理のため本件土地の換地予定地三百七十九坪二合三勺を指定して來たが、それに依ると、右換地予定地は別紙図面A′部分(い点乃至ぬ点を結ぶ線にて区切られた部分)の通りであつて、從前略々方形であつたものが著るしく不整型となり、且つ面積において約四割四分強減歩となり他の一般の例に比べて甚だしく少い。一方從前同一地区内で本件宅地の東偶に隣りして廣小路に面していた訴外徳永捷の如きは、從前の地積で八十七坪六合二勺(別紙図面B部分)であつたものが、二割一分減の六十九坪二合の換地予定地(別紙図面B′部分)の指定を受けている(同人の換地予定地の存在が原告の換地予定地を不整型にした重要な因子である。)ことに比較して、甚だしく不公平な処分と言わなければならぬ。原告は、將來新医師法に基ずく病院開設を目論んでいたところ、斯様な換地(予定地)の指定を受けたのでは、事実上該計画の実施は不可能となるものであるが斯くては、原告は、被告のため不法に財産権を侵奪され、進んで居住及び職業の自由まで不当な制限を受ける結果となるものであつて、被告の本件換地予定地指定処分は、都市計画法の準用する耕地整理法第三十條の規定に反する違法の処分と言うべきである。依つて、本訴を提起してこれが取消を求めるものである。
被告訴訟代理人は、先ず訴却下の判決を求め、その理由として次の通り陳述した。(一)特別都市計画における被告の処分に対しては、都市計画法第二十五條に依り先ず愛媛縣知事に訴願をし、然る後出訴すべきものであるから、右の手続を経ない本件は不適法な訴と言うべきである。のみならず、(二)直ちに出訴し得る前提に立つても、本件の出訴は、換地予定地処分のなされた昭和二十四年一月十九日から行政事件訴訟特例法第五條第一項所定の六箇月の不変期間経過後のものにかかり、本件は、この点においても亦不適法な訴と言うべきである。
本案については原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、次の通り陳述した。
原告主張事実中、原告が本件土地を所有していること、被告が昭和二十四年一月十九日今治市特別都市計画の土地区劃整理のため、本件土地についての換地予定地三百七十九坪二合三勺を別紙図面A′部分の通り指定したことはこれを認めるも、右は、都市計画法の準用する耕地整理法第三十條の規定に反する違法の処分ではない。そもそも、本地区の從前の宅地の区劃状況は別紙図面中黒線を以て示す通りであつて、これが整理後の換地予定地は、赤線を以て示す通りである。即ち、廣小路の從前の幅員は十八米であつたものを三十六米に、森見通りは六米であつたものを二十五米に、青木通りは二米であつたものを六米にそれぞれ拡張し、且つ廣小路と森見通りとの角地に角切り(廣小路側一〇・八米、森見通り側五・六米)を付けたため、本地区内の整理後の地積は、從前の千七百四十七坪四合八勺に比べて九百五十二坪四合二勺少い七百九十五坪六勺となつた。元來、今治市特別都市計画においては、從前の地積から二割一歩宛頭割に減歩したものを、整理後の換地の地積―権利地積―とする取扱基準を定めているものであるところ、斯様に本地区の区劃整理の結果は、從前に比べて約四割三分減となり、到底從前の宅地所有者総てに対し、同地区内に換地を指定することができないので、池内数雄(別紙図面C部分)及び瀬戸内商船株式会社(別紙図面D部分)に対しては、地区外に換地予定地を指定するを余儀なからしめられたが、それでも、その余の者に対して権利地積を指定することができないので、原告に対しても権利地積五百三十三坪二合五勺に比べて百五十四坪二勺少い三百七十九坪二合三勺を、別宮熊一に対しては、從前の地積二百坪二合(別紙図面E部分)権利地積百五十八坪一合三勺のところ百五十二坪七合を(別紙図面E′部分)渡辺善一に対しては從前の地積二百十三坪六合(別紙図面F部分)権利地積百六十八坪七合四勺のところ百三十七坪九勺(別紙図面F′部分)を、生川秀之助に対しては、從の地積百七十三坪二合五勺(別紙図面G部分)権利地積百三十六坪八合六勺のところ五十三坪八合四勺(別紙図面G′部分)を、いずれも権利地積よりも少い地積を指定し、唯徳永捷に対しては、從前の地積八十七坪六合(別紙図面B部分)に対する権利地積六十九坪二合(別紙図面B′部分)を指定したものである。而して、原告に対する地積は、権利地積に比して百五十四坪少いけれども、原告に指定した換地予定地の中七十七坪二合は、整理の結果廣小路に面することになつた部分であつて、これは、原告の從前の宅地の品位に比べて三倍の價値を有するものであるから、これを從前の宅地の権利地積二百三十一坪六合に換算することができるわけであつて結局のところ、原告に対しては、五百三十一坪六合二勺を換地予定地として指定したことになるもので、從前の宅地の等位を基とした権利地積に比較して僅か一坪六合三勺少いに過ぎないのである。斯様な扱は前記生川の場合と同様であつて、原告を不当に不利益に扱つたものでない。要するに、本件換地予定地指定処分は、耕地整理法第三十條に違反する処分でなく原告請求は失当である。
原告訴訟代理人は被告訴訟代理人の本案前の抗弁に対する答弁として次の通り陳述した。
(一) 被告訴訟代理人主張(一)の点について
特別都市計画法第二十六條の準用する都市計画法第二十五條及び第二十六條に依れば、特別都市計画法若しくは同法に基ずいて発する命令に規定した事項について、行政廳の爲した違法処分に因り権利を毀損せられたとするものは、訴願を爲し、又は裁判所に出訴することを選択的に許されているもので、必要的に訴願前置主義を採つているものでないと解せられるから、原告が訴願手続を経ないで出訴したことは、行政事件訴訟特例法第二條に違反するものではない。
仮に右の理由がないとしても、原告は、本件換地予定地指定のなされる事前にその内容を聞知したので、昭和二十三年十月二十日、被告に対し、処分前再考を促すため陳情をしたにかかわらず、被告はこれに対して何等の回答を與えず、本件処分を強行したもので、更めて訴願をするも無益と認められ右は、訴願の裁決を経ないで出訴するについて正当の事由と言うことができるのみならず、被告は、昭和二十四年二月十一日付を以て、原告に対し前記病室が徳永の換地予定地上に在るとの理由で、これについて移轉命令を発し、更に同年五月二十四日行政代執行法の規定に依る強制執行を前提として、右命令の履行方を戒告して來ているものであつて、原告が訴願の裁決を経た上で出訴するにおいては、著るしい損害を蒙ることとなるから、本訴は行政事件訴訟特例法第二條但書に依り適法な訴と言うべきである。
(二) 被告訴訟代理人主張(二)の点について
特別都市計画法上の換地予定地の指定は、土地区劃整理の工事施行の必要上なされる経過約措置であつて、それ自体終局的処分ではない。然るに行政事件訴訟特例法第五條が出訴期間を六月と定めたのは、爭の目的たる行政処分の効力を永く不確定の状態に置くことは行政上の秩序を保つ所以でないとの理由に基ずくものに外ならないが、被告は、換地予定地指定の後前述の通り、原告に対し該地上の建物の移轉命令及びこれが代執行を前提とした戒告を発しておるものであるところ、これは、換地予定地処分と不可分一体をなすものと言うべく、本訴においては、前述の通り病室移轉命令の代執行の戒告のなされた昭和二十四年五月二十四日を出訴期間の起算日とするを至当とし、從つて、これを以て不適法な訴と言うことはできない。(各立証省略)
三、理 由
先ず、被告訴訟代理人の本案前の抗弁について考えて見る。特別都市計画における換地予定地の指定は、その後なされるべき換地処分の前提としてなされる一の経過的段階的処分であつて、それ自体独立した一の終局的処分ではなく、むしろ換地処分の計画として重要な意義を有するものであるから、換地指定のなされるまでの間においては、何時にても換地処分の計画を爭う意味において、換地予定地指定の効力を爭い得るものと解するを相当とし、本訴が換地予定地処分のなされた日から六月の期間を経過した後に提起されたことは、これを不適法な訴とし却下する理由となすに足らない。
而して、原告が本件換地予定地指定に対して訴願手続を経ずして出訴したことは、行政事件訴訟特例法第二條に照し不適法と言うべきものの如くであるけれども、特別都市計画法の準用する都市計画法第二十五條と同法第二十六條の規定に対照するときは、同法が一般に行政事件について出訴を許さず、特別の規定あるときに限り訴願の裁決を経た後行政裁判所に出訴することを許していた旧憲法下の法律であることを理解できない通常人としては、右の規定は、あたかも同法又は同法に基ずいて発した命令に規定した事項につき行政廳のした処分に対しては、当事者に訴願と訴訟の提起を選択的に許した規定であると解釈することはむしろ当然であつて、原告が訴願の裁決を経ずして本訴を提起したことは、無理からぬと察せられるのみでなく、今この点において本訴を排斥したとしても、原告は、更めて換地処分について適法な手続を経て出訴することとなり、斯くては、訴訟経済上甚だ好ましからぬ結果となるので、本件は、行政事件訴訟特例法第二條但書に該当する一場合と解すべく、これを不適法な訴として却下することは相当ではない。
仍つて、進んで本案について審理するに、本件宅地は原告の所有に属し、その面積は、六百七十五坪、位置形状は、別紙図面A部分の通りであること、被告が昭和二十四年一月十九日今治市特別都市計画の土地区劃整理のため本件宅地の換地予定地三百七十九坪二合三勺を別紙図面A′部分の通り指定したこと、原告の職業は内科医であつて從前から本件宅地上に病院を建築して開業していたものであること、今治市特別都市計画の土地区劃整理においては、從前の宅地の地積から二割一歩宛頭割に控除したものを整理後の換地の地積の基準―権利地積―とする実際上の扱であることは当事者間に爭ない。
そうすると、原告は從前の地積に比べて約四割四分、権利地積よりも百五十四坪二勺多く削減を受け、これは他に特別の事情のない限り一般の例に比較して甚だしく不利益な扱であることが一見明白である。
もともと、弁論の全趣旨に徴すると、被告のいわゆる権利地積の算定は、今治市全体の土地区劃整理上新しく道路緑地等を拡張するに要する土地の地積、最少規模面積三十坪(百平方米)に増歩して換地する過少宅地の増歩に必要な土地の地積及び金銭清算する過少宅地の地積を夫々見積り前二者の合計から最後のものを控除して、その差額を最少規模面積以上の宅地から控除するを要する地積とするとき、頭割平均して二割一歩となることに基礎を置くものであることを認めるに足るところ換地の指定に当つて、この取扱基準を著るしく離れるにおいては、全体の計画に齟齬を來し、自然と恣意を挿む余地が多くなり、ひいては公正を疑わしめる結果を生じることもあり得るわけであるから、整理施行者は特別の理由(当事者の内諾希望等)のない限り、標準の地積を交付する立前を採るべきものと解しなくてはならぬ。
尤も、廣小路に面する宅地が森見通り或いは青木通りに面する宅地に比べて等位の優ることは当事者間に爭なく、本件換地予定地の一部ほ点乃至り点を結ぶ七十七坪二合部分は、これを從前の本件宅地の等位に比べて優れたものとして扱うことは、相当と言うべきである。而して、証人別宮熊一、同富永一之、同矢野要の各証言を綜合すると、廣小路に面する宅地の價格は、森見通り又は青木通りのそれに比べて約三倍であることを認めるに足り原告がこの部分を然るべく利用するにおいては、それ相当の便益を得るものと推断して差支えなく、これは換地の地積を定めるについて一の標準となり、原告に対する換地を権利地積よりも少く指定したことの特別の事由と言うことができぬこともないようである。
然し乍ら、原告は、前述の通り内科医業を経営しているものであり、原告本人の供述に依れば、原告は、今後も新医師法の規定する規格に適合した病院を開設する方針であることを窺うことができるのであるが、医業の如きにおいては必ずしも繁華街に位置することを必要とせず、或場合においては、それが却つて不利益であることすら予想できるところであるから、原告に関する限り、廣小路に面する換地の指定を受けることにより、格別の利益をうけるものでないと解するを至当とするところ、被告の定めた今治市土地区劃整理施行規程において、換地の交付は從前の位置、地目、地積等位、評定價格等の他その利用状況をも考慮に加えてこれをすべき旨の取扱準則を規定していることに鑑みても、換地の客観的等位乃至評定價格のみを標準としその主観的使用價値を無視し從前の地積よりも著るしく減歩した地積を指定することは、都市計画法の準用する耕地整理法第三十條の規定の精神に背馳するものと言うべきである。
しかも、本件宅地は略方形であつたものが、その換地予定地は図面に依つて明白な通り鍵型というか一種異様な形状を呈しており、斯様な換地の指定は、もともと宅地の利用を増進することを主眼とした土地区劃整理の目的に反し、前述の通り、地積を著るしく減歩せられたことゝ相俟つて、原告は、從前の宅地に比較して著るしく利用價値の劣る換地の交付を受け、甚だしい犧牲を強いられる結果となつたもので、或いは、本件換地予定地指定処分を以て、故意に原告の職業の自由を阻害するとの批難にも値するものと言うべく、この点のみを採つても、右は、到底耕地整理法第三十條に適合した処分と言うことはできない。
要するに、斯様に道路拡張のため著るしく宅地の減少した地区に、多数のものを残置せしめようとするところに無理があるのであるから、被告は、よろしく一部のもの―他に然るべき場所があるにおいては原告に対してするも勿論不可と言うことはない―に対し、別地区内に換地を指定する方針を採るべきではあるまいか。
依つて、原告の本訴請求は相当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 加藤謙二 矢島好信 水地巖)
(別紙省略)